以前に大学で後進に拙著「大腸内視鏡挿入の手引き」を用いて指導していたときのことです。
拙著「大腸内視鏡挿入の手引き」には、理想的な内視鏡挿入のイメージと挿入部位別のアルゴリズムが軸保持短縮法にまで踏み込んで解説してあります。
さて、私が書いたこの著書に対する意見や評価を同じ診療科の医師達に尋ねたところ、「こんな風にピンチの時はこうするべし」のようなトラブルシューティングが書かれていればなお良い、という意見がありました。
例えば、「T/Cで押しても引いても先端が進まない時は、こうするべし」「ファイバーの全長を使い切っても盲腸まで届かない場合はどうすればいいのか」という類のことです。
その意見に対して私はこう答えます。
大腸内視鏡の挿入には直腸から始まり軸保持のまま盲腸に至る理想型(GOLDEN COURSE;GCと略しますね)というものがあります。
GCの内容については著書内にもありますが、またいつかこのブログでも触れるつもりです。
上級者未満は、この理想型を何度も何度も繰り返して身につけるべきです。
トラブルシューティングは個々のトラブルに対してれっきとした正答があるのですが、それらの本質は全て「GCに戻れ」の一言に尽きます。
上記の「T/Cで押しても引いても先端が進まない時は、こうするべし」「ファイバーの全長を使い切っても盲腸まで届かない場合はどうすればいいのか」などは、そうなる以前のとっくのとうにGCから反れてしまい、そのまま無理にプッシュで挿入し続けた「成れの果て」の状況です。
もっともっと早く、GCから反れたことに気づいて、GCに戻って来ねばなりません。
私に言わせて頂ければ、GCから外れた時点で既にトラブルなのです。
もちろん、私も稀にはGC通りにはいかずに少し腸管を伸展させながら挿入して、right turn shorteningで戻すこともありますが、そんなときでも伸展は最小限です。
*上記の「T/Cで押しても引いても先端が進まない時は、こうするべし」「ファイバーの全長を使い切っても盲腸まで届かない場合はどうすればいいのか」という質問に対して、ある医師が「ファイバーを押したり引いたりしているうちに少しずつ腸管の位置が変わったり微妙に短縮してきたりするから、押したり引いたりして工夫していれば挿入できるんだよ」と答えていましたが、絶対に間違いです。
*思えば、私が「大腸内視鏡挿入の手引き」を書き始めたきっかけは、まだ大腸内視鏡の修行中にトラブルシューティングの方法を誰に質問しても納得する答えを得られず、パソコンに書きとめておいて将来の自分が答えてくれることを願ったのが始まりでした。
・・・皆様のご意見、お待ちしております。
ちなみに拙著「大腸内視鏡挿入の手引き」(非売品)の一部を簡単に総括した内容を書いたのが、市販の本(下記)です。
(参照)行列のできる!患者に優しい「無痛」大腸内視鏡挿入法